医療ベンチャー

昨晩はVISAの問題に頭を悩ませつつも、Chapel Hill時代の友人と飲む機会があった。彼は一風変わった男で、医療情報を医者に向けてメルマガで流す会社を興している。もとは血液内科医なのだが、本業の臨床からは離れ、患者会を組織したりして「患者支援学」なる学問を作りたいらしい。外科医になりたい自分にとって彼の目指すところは傍流でしかないが、間違いなく「患者支援」という視点はこれからの医療の本流になっていくだろう。確かに現在の医療は技術的に非常に大きな成功を収めてきたように見える。僕の専門領域でも昔は発見できなかった早期の癌が発見できるようになり、癌を根治させることも出来るようになってきてはいる。しかし、癌の治療というものは、治療から5年(乳癌では10年)無再発で経過して初めて根治したといえる。当然ながらその治療期間は患者にとって肉体的にも精神的にも非常に苦しいことは間違いない。僕ら医者も当然そのことは分かっているのだが、肉体的苦痛を取り除くことにはある程度の力を発揮できるが、精神的苦痛となると手も足も出ない。彼の考え方では、本当の「患者支援」というのは支援を必要としている患者のニーズを本当に理解している元患者こそ適任であるというのだ。そこに患者会の意義があるという。彼は「患者支援学」として彼の考えをまとめるために、心療内科でトレーニングを受け、クリニックを開設し、そこで集めたデータを大学でまとめるつもりのようだ。昨今の医療ベンチャーというと、遺伝子だ再生医療だと非常に高度な技術を要するものばかりだったが、ただ技術を売り物にするだけで、本当の意味でのベンチャーとはいえないと思う。彼の目指す事こそ、医療業界に変革をもたらしてくれる本当の意味でのベンチャーになるのだろう。