医師不足と救急医療

今日もとある田舎の病院の当直をしている。日本に帰ってきてからというもの、ほぼ毎週週に3回から4回の当直に入っている。当直の合間に飲み会が入ったり、大学に顔を出さなければならなかったりで、ほとんど家には帰っていない。ちなみに今日は日曜日だが、先週の月曜日から満足に帰宅していない。きっとアメリカでのフェロー生活は、もっと悲惨なんだろう。アメリカでの研究生活時代は、ほぼ毎日定時に帰宅していた。妻も子供もそんな生活を喜んでいてくれたと思う。(自信はないが)
しかし、何でこんなにも当直のバイトが多いんだろう。今は再渡米資金をためないといけないので、当直のバイトはありがたいが、昔は辟易していた。日本には病院が多すぎるので、各病院の勤務医だけではとても当直が回せないという事情がある。100床ぐらいの病院でも、常勤の勤務医というのは5、6人しかいないところが多い。つまりバイトの手を借りないと週に1回か2回の当直が必須になってしまう。そこで、中小の病院は大学病院から研修医の手まで借りて当直を回していたのである。今なお、日本では医者が不足しているといわれているが、人口当たりの医者の数で見ると欧米諸国とほぼ同じである。しかし、病床数あたりの医者の数は欧米よりもはるかに少ない。言い換えれば、人口当たりの病床数が欧米よりも圧倒的に多いのである。このことが、もはや社会問題となりつつある高齢者の社会的入院を助長しているに違いない。
医者不足に関して、確かに医者が不足している診療科や地域は存在する。最近は小児科、産科医師の不足が社会問題になってきている。当直をしていると、確かに小児の救急受診の頻度が高いことに気付く。しかし、小児救急のほとんど(99%といっても過言ではないだろう)が軽症である。小児科の医師は、風邪や軽い腸炎などの軽症症例に忙殺されて、休みなく働いている。お産に関しては、出産の主役はあくまでお母さんであり、難しいお産を除けば、医者は出産の主役であるとは言えない。すべての医者が僕と同じ考えとは思わないが、やっぱり重い病気や難しい病気を治すことに生きがいを感じている医者は多いだろう。例えば、毎日昼夜なくコンビニでレジを打つ仕事と、世界を相手に昼夜なく仕事しているビジネスマンを考えてみてほしい。同じように大変な仕事なら、人はどっちを選ぶだろう。コンビニの仕事は大事だと思うが、僕はやっぱりでっかい仕事がしたい。小児科や産科の仕事がコンビニと同格のわけはないが、実際はコンビニ店員のような仕事に忙殺されて、本来やりたかった本当の医療に、思いっきり打ち込む余裕がなくなってしまっているような気がする。そのことが、両診療科が学生に不人気な理由の一つに思えてならない。
たった今、急患が来た。3歳の子供で目ヤニが出ているので診てほしいと母親が希望しているようだ。つい10分前にも転んで頭をぶつけたからCTを撮ってほしいという5歳の男の子の母親が来た。これが救命病棟24時の現実だ。