産業医の診察室から

産業医のバイトでは、時間の大半を長時間残業者の面談に当てている。僕自身も良く働くと思うが、彼らも良く働く。働きすぎて鬱気味になっている社員も多い。産業医の診察室では、外科の仕事とはまったく趣が違うが、そんな彼らのカウンセリングをやるのが僕の主な仕事だ。給料を貰う以上、いい加減なことは出来ないので、産業医学の本から、心理学、カウンセリングの本、果ては企業経営者諸氏が読むようなマネジメントの本まで読み漁って仕事に臨んでいる。
今日は非常に嬉しい事があった。先月面談した社員が、今月も長時間残業にひっかかって、今日面談した。前回の面談では、彼はかなり鬱気味で、実際、心療内科から抗うつ薬を処方されていた。実際の彼の症状はMajor depressionというほどでは無く、面談では彼の話しを聞いてあげただけだった。しかし、今回の面談では、彼は先月よりさらに長時間の残業をこなしていたにもかかわらず、非常に顔色が良かった。彼の話でも、前回の面談以降、症状が良くなり服薬を中止したとの事だった。Mentalな問題では、症状の進退に一喜一憂するのは良くないことだが、やっぱり嬉しかった。
一見、外科の仕事とは程遠い内容のように思えるが、外科の患者さん、特にがんの患者さんは抑うつ状態に陥ってしまうことがよくある。しかし、そんな患者さんの心のサポートまでは中々手が回らないのが実情だし、時間があってもどのように対応するべきなのか分かっていない外科医がほとんどだ。最近の臨床研修では精神科研修が必須になっているようだ。精神的なサポートが出来る医者になる事は、僕の目指す外科医のカタチの非常に重要な要素となった。