産業医の診察室編

僕が産業医としてバイトしている会社は、老舗のIT関連企業だ。歴史がある分最新の技術から陳腐化してしまった技術まで一揃い持っている。陳腐化してしまった部門は、採算性が悪くなってくるので、会社としてはリストラが必要になってくる。
今日の産業医面談の最初を飾ったのは、そんなリストラ対象部門の責任者だった。古来より、負け戦の殿を務めるほど危険なことは無いと言われている。豊臣秀吉でさえ敗軍の殿を務めたときには死を覚悟していた。現代の会社組織でも、敗戦処理と言う仕事は想像を絶する重圧がかかるようだ。その責任者は重圧に良く耐えて頑張っていたようだが、彼の腹心が会社を去り、その分負担が急増した時に、とうとうDepressionに陥ってしまった。既に抗うつ薬を内服していたにもかかわらず、症状は悪くなっているようなので、彼には「仕事を離れて休養が必要だ」と話した。説得はかなり骨が折れたが、最後には休養をとることに同意してもらった。彼が診察室を出ると間も無く人事部長が診察室にやって来た。彼の体調を心配していたが、もっと彼の代わりがいない事を心配していた。とにかく、休養が彼には絶対必要であることを説明し人事部長にも納得してもらった。
午後には、別部門の管理責任者が、部門の課長クラス4人の就業時間表を持って診察室にやって来た。時間表をみると、その4人の就業時間はここしばらくの僕の就業時間とほとんど変わらないくらい働いていた。(詳細な時間は言えません)4人のうち1人は、2週間前の面談でかなりやばそうな印象だったので、特別に今日再面談を予定していた人だ。悪いことに、その人は昨日より体調を崩して休んでいると言う。詳細は分からないが、彼には基礎疾患がいろいろあったのでかなり心配だ。大事に至らないといいが。他の3人も面談の常連で、やっぱり色々な症状を訴えていた。部門の管理責任者には、休んでいる人には、これ以上の残業の禁止を、他の3人にも残業時間の制限を加えるようお願いした。
会社と言うのは、花形部門もリストラ部門も同じように厳しい場所のようだ。せめてはっきりとしたゴールが見えればストレスも軽減されると思うが、なかなか難しいようだ。産業医としてもドクターストップのタイミングと言うのが非常に難しい。まだまだ勉強が必要だ。