Dr. T

連続勤務記録はいよいよ6週間に達した。しかも先週は7日間のうち4日間は徹夜だった。同様に忙しいAdult Liver Serviceでは故障者も続出しているようだ。僕はというと、体重が6kg減った後は全く減らなくなった。尿量は落ちている様な気がするので、きっと3rd Spaceに水分が逃げて、むくんでいるせいに違いないなんて思いながらも、故障の気配すらない自分の健康な体がうらめしい。
そんな1週間だったが、多内臓移植が2件あり、我が移植外科のTopであるT先生と立て続けに御一緒させていただく事ができた。このT先生、見た目は怖いが意外にも術中はやさしい(ただし、出血している最中は別人となる)。きわどい結紮の時など(ここでへましたら)「カイシャクだ」なんてへんな日本語で話しかけてくる(切腹のときの介錯のことのようだ)。手術はとても荒く見えるが、バサバサと指で千切る様に剥離していく割に出血が少ない。吻合も震える手先の割りに一発で決める。病棟にも時間があるときは必ず顔を出し鋭い質問を浴びせかけてくるので、小心者の僕はT先生の姿を病棟で見かけたときには物陰に身を隠すようにしている。今日もICUでT先生の姿を見かけたときに、僕は反射的に身を隠したが、逃げ遅れたAttendingのS先生が捕まって質問攻めにされて火だるまになってしまった。結局火の粉は僕にも降りかかってきて二人して火だるまになってしまったが、T先生を前にオドオドしてしまっているS先生は、まさに普段の自分を見ているようだった。Dr.Tのすごさは、他の追随を許さないほどの経験と知識にある。世界中の多内臓移植手術症例の半分以上を手がけているらしい。ちょこっとワンマンな印象も受けるが、最高の外科医の一人であることは間違いないだろう。次からは逃げ隠れしないで、T先生の前で堂々とオドオドしてみようと思う。